プールオム オードパルファム
ダージリンからセイロンへ二つのお茶が時間とともに交代し、ジンジャー、乾いた木、白いムスクで外の開放感と内側の安心感をつなぐウッディ・ムスクです。
#458 · 2026-08-20
香水の基本情報と第一印象
ブルガリ プールオム オードパルファムは、2024年に登場したウッディ・ムスクの香りです。ブルガリが掲げるのは、屋外の開放感と室内の快適さの均衡。外へ出る香りか、家で落ち着く香りか、どちらか一方を選ぶのではありません。外で吸い込んだ明るい空気を、自分の内側へ持ち帰るような一本です。
最初に立つのはダージリンティーとジンジャー。透明で乾いたお茶へ、冷たく辛い輪郭が重なります。甘さは控えめで、すっきりしたお茶の香りです。そこからセイロンティーとガイアックウッドへ進み、最後はアンブレットとホワイトムスクが肌の近くに残ります。力強い革や重いアンバーで男性性を押し出す香りではなく、茶葉、白い湯気、乾いた木、清潔な布の印象が順に移ります。
一言でいえば、外の空気から静かな部屋へ戻るティー・ムスク。透明感だけで終わらず、木とムスクが安心できる場所をつくります。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師はジャック・キャヴァリエール・ベルトリュード。グラースに生まれ、父と祖父も調香師という家系で育ちました。花畑で原料に触れ、抽出から香りの組み立てまでを早くから学んだ人物です。天然素材だけを尊ぶ職人でも、合成分子だけで未来を作る技術者でもありません。素材の生きた輪郭と現代の技術を、一つの透明な構造へ入れます。
本作では、ジンジャーとセイロンティーにSFEと呼ばれる低温のCO2抽出が使われています。高い熱で素材を押し切らず、自然な香りの輪郭を保つための技術です。トップのジンジャーが明るく鋭く、ミドルのお茶が濁らず深く感じられる背景に、この抽出法があります。
ブルガリとお茶の関係は、1992年の歴史的なオ・パフメ オーテヴェールへさかのぼります。最初は一般向けではなく、上得意の宝飾顧客へ向けた香りとして始まり、その後広く販売されました。1996年のプールオム オードトワレ、その後に登場し現在は廃盤のプールオム エクストレーム、オ・パフメ テ ブランへ続きます。2024年の本作とオ・パフメ テ インペリアルまで、お茶の種類や組み合わせを変えながら表現の幅を広げてきました。なお、現行の緑茶の香りを指す場合はオ・パフメ テヴェールと呼び分けます。
香りの詳細分析
トップはダージリンティーアコードとジンジャーSFEです。お茶の透明感と、ジンジャーの冷たい辛さが同時に立ち上がります。ジンジャーを柑橘のように明るく感じる人もいますが、公式のノートにレモンやベルガモットはありません。甘さを足すより、白い湯気の輪郭を細く強くする役割です。
ミドルはセイロンティーSFEとガイアックウッドエッセンス。ここでお茶が消えるのではなく、ダージリンの明るさからセイロンの濃さへ表情を変えます。ガイアックウッドが乾いた木と薄い煙を添え、トップの鋭さを落ち着かせます。二種類のお茶が時間とともに交代する「ティー・デュオ」が、この香りの中心です。
ラストはアンブレットシードアブソリュートとホワイトムスクアコードです。白い布、清潔な肌、乾いた紙を思わせる静かなムスクが残ります。アンブレットがやわらかな温度を加え、木質を肌になじませます。強い甘さや重い樹脂へ急に変わらず、お茶の苦みをかすかに残しながら、香りが肌の近くへ弱まっていきます。
持続や広がり方の感じ方は分かれます。フレッシュなティー・ムスクとして長く残るという声がある一方、数時間で肌の近くへ弱まる、価格に対して拡散が控えめという声もあります。強さを先に決めつけず、明るいお茶から白いムスクまで自分の肌で待つことが、この香りを選ぶ近道です。
他の香水との比較・ポジショニング
ブルガリ プールオム オードトワレとは、ダージリンティー、ガイアックウッド、ムスクという核を共有します。オードトワレはウォーターリリーとカルダモンがつくる風通しのよいフローラル感。オードパルファムはジンジャー、セイロンティー、アンブレットによって、グリーンで少し煙った密度を持ちます。濃度を強くしただけでなく、同じDNAを別の方向へ組み直した関係です。オードトワレは香水ラジオ第4回で取り上げています。
ルイ・ヴィトンのイマジナシオンも、同じ調香師がお茶とジンジャーを扱います。黒茶にアンブロックス、柑橘、スパイスを重ね、光を外へ広げる香りです。本作はダージリンとセイロン、ガイアックウッド、白いムスクで、肌の近くに穏やかに残ります。明るく広がるお茶を選ぶか、乾いた木と肌の静けさを選ぶかが分かれ目です。
現行のブルガリ オ・パフメ テヴェールは、緑茶、ネロリ、ベルガモットの軽いシトラス・アロマティック。葉と花の明るさが前へ出ます。本作は二種類のお茶、ジンジャー、木、ムスクが中心で、衣服と肌へ近いウッディ・ムスクです。ブルガリのお茶の歴史を、軽さではなく安心感の方向で選ぶ一本といえます。
購入ガイド・価格・おすすめ度
日本公式で確認できるのは100ml、22,220円です。価格、容量、在庫は地域や時期で変わるため、購入時には公式サイトで最新情報を確かめてください。非公式の販売ページには別容量の記載もありますが、現行公式で確認できる100mlを基準に考えると迷いにくくなります。
プールオム オードトワレを持っている人は、まず香りの強さより、トップからミドルの組み替えを比べてください。ウォーターリリーとカルダモンの透明感が好きならオードトワレ。ジンジャーの明るさ、セイロンティーの深さ、アンブレットのやわらかさが欲しいならオードパルファムです。
透明なグリーンのボトルは、新しい濃度と調和の風景を表し、「内なる聖域」への入口に見立てられています。Pour Homme系列の弧を描く形、大きな銀色のキャップを受け継ぎながら、薄い緑が本作の茶と木の清潔な印象へつながります。
向いているのは、甘さや強い拡散より、乾いた茶、ジンジャー、清潔なムスクを選びたい人。石けんのような清潔感やジンジャーの鋭さが苦手なら、紙だけで決めず、肌で後半まで試すと判断しやすくなります。
実際の使用感・シーン・評判
ブルガリは季節を指定していません。香りの構造と利用者の傾向からは、春、初夏、秋の日中に合わせやすいでしょう。暑さの強い日はジンジャーやムスクが鋭く感じられることがあるため、少量から。真冬の屋外や、甘く重い余韻を求める華やかな夜には、静かすぎるかもしれません。
オフィス、昼の食事、美術館、移動の日、人と近い距離で話す場面へ。白や淡いグレーのシャツ、ハイゲージニット、ネイビーのジャケット、薄いグリーンやベージュのチノと自然につながります。強く広げるより、清潔で静かな存在感をつくる使い方です。
肯定的な声は、茶とジンジャーが現代的で清潔、紳士的でも古くない、仕事と私服の両方に使えるという方向です。無糖ティーや、ホテルの清潔なブランケットを思わせるという比喩も聞かれます。一方で、ジンジャーが鋭い、石けんや洗剤に近い、変化が少ない、拡散が控えめなのに価格が高いと感じる人もいます。肌と気温で印象が動きやすいからこそ、後半のムスクまで待つ価値があります。
この香りの魅力は、遠くまで届く強さより、時間とともに香る距離が近くなることです。ダージリンの明るさがセイロンティーと木の乾きへ移り、白いムスクが肌の近くに残ります。まず少量を肌へ。外の光を思わせる明るさが、内側の安心感へ変わるところまで待つと、ティー・デュオの輪郭が見えてきます。


